神戸大学大学院経営学研究科:神戸大学経営学部

教育プログラム

人間が1人で成し遂げることができる仕事には限界があります。より大きな仕事をするために人々は会社や役所などの組織を作ります。しかし,それだけで自動的にうまく機能するわけではありません。それでは,どうすれば組織を上手に動かして,初期の目的をより効率的に達成できるのでしょうか。そのためには,いったいどのような戦略を立てればよいのか,その戦略をどのように実現していくのか,その実行状況をどのようにチェックするのかなど,考慮すべき事項は多種多様です。そして,経営学部ではこういった広範な学問分野に研究の目が開かれています。

神戸大学経営学部は,研究科の沿革で紹介されているように,日本全国の国公私立大学を通じ最初の「経営」学部として誕生しました。現在,日本の大学で“経営学部”という呼称以外にも“経営○○学部”と名の付く学部はたくさんありますが,これらの草分けが神戸大学経営学部なのです。

経営学は会社に代表される様々な組織の経営(マネジメント)を対象としているので,そこで学ぶことは,私たちが今生きている社会について,様々な角度から理解を深め,実践に対応できる知識体系を身につけるのに役立つとも言えます。にもかかわらず,理論指向が強いこともその特徴です。「理論」というと理屈っぽく役に立たないと思われるかもしれませんが,そんなことはありません。良い理論ほど役立つものです。

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神戸大学経営学部で学ぶ

神戸大学経営学部ではその教育研究上の目的を次のように定めています。

「本学部は,広く知識を授けるとともに,わが国の経営学・商学の中核的拠点として,先端的な教育研究を行い,21世紀の知識・産業社会にあって知的リーダーシップを発揮できる,豊かな教養,経営・経済・社会の全般にわたる基本的知識,経営に関する専門的知識,国際社会に通用する思考力,判断力及びコミュニケーション能力を備えた人材の養成を目的とする」

この目的を達成するため,経営,経済,社会の全般にわたる幅広い基本的知識を有するジェネラリストとしての教育と,経営学部生としての一定の専門性を求める社会的ニーズにも応える教育の,これらを両立させるように配慮した,カリキュラムの体系を経営学部では策定しています。以下これを説明しましょう。

経営学部のカリキュラム

経営学部では,上記で述べた目的を達成するための体系だったカリキュラムを編成しています。まず,すべての授業科目は「全学共通授業科目」と「専門科目」との2種類に大別されます。

「全学共通授業科目」とは,経営学部以外の他学部と共通の,大学教育の基盤に関わる基礎科目群で,外国語科目,基礎教養科目, 総合教養科目, 教養原論,共通専門基礎科目などから成り立っています。「専門科目」とは,各学部で固有に行われるより専門性の高い授業科目のことで,経営学部では経営学部専門科目が設置されています(図3)。

21世紀の知識・産業社会にあって知的リーダーシップを発揮できる人物となるためには,まず豊かな教養,そして経営・経済・社会の全般にわたる基本的知識を学ぶ必要があります。さらにこの幅広い一般教養の土台を得てこそ,はじめてしっかりとした経営学の専門知識が構築されます。このことが可能なように,経営学部のカリキュラム体系は,入学後1年次には,経営学の基礎に加え,幅広い一般教養をまず学び,そのうえで次第に専門度の高い科目群を履修する,という仕組みになっています。

経営学部専門科目は,第1群科目,第2群科目,および第3群科目の3種類に分類されます。第1群科目は,経営学を学び始める1年生に必要な基礎知識を提供しようとする科目で,基礎論科目である経営学基礎論,会計学基礎論,市場システム基礎論の3科目があります。基礎論の3科目はすべて必修科目で,経営学部で学ぶ全ての学生にとって必要な基礎知識の提供を目的としています。

第2群科目は第1群の基礎科目群を学習した上で履修すべき展開的な科目群で,第2年次および第3年次で履修するのが望ましい科目です。このうち,必修科目として外国書講読があります。第3群科目は,それぞれの領域固有で専門度がより高い応用的な発展科目群で,第2群科目をある程度履修したあとで第3年次~第4年次で履修することが望ましい科目です。第2群と第3群の具体的な科目名称は,図3に記載されていますので参照してください。このような授業科目の分類により,皆さんが関心を持つ,より専門的な領域の知識を4年間で無理なくかつ体系的に学習することが可能となります。

また,皆さんが関心をもった領域の研究は,ゼミナール(研究指導)を通じて深められることになります。ゼミナールは,一人の教員と少人数の学生から構成される研究会形式の授業で,2年間にわたり開講されます。1ゼミナールあたりの学生数は最大でも10名程度であり,大教室での講義では不可能な,教員と学生との相互交流を経験することが可能です。ゼミナールを通じ,問題の発見力,問題の深いレベルでの理解力,問題解決のための思考力・判断力,自分のアイデアを相手に適切に伝える表現力などが身につけられるようになっています。また、ゼミナールの中には、海外留学プログラムへの参加を前提とし、国際的なコミュニケーション能力を高めることを目的としているものもあります。まさに国際社会に通用する思考力,判断力及びコミュニケーション能力の最終トレーニングの場がゼミナールだといえます。

経営学部で毎年開講される授業科目は約70程にものぼります。このように多様な授業が提供できるのは、経営学部にそれだけ多様な教員が多数いるからであり、神戸大学経営学部の最大の特徴であり資産です。そのバラエティの豊富さはこちらのページで感じ取ってください。これらは大きく次の3つの分野(専攻分野)に分けることができます。先ほどの第1群,第2群,第3群が縦の分類とすれば,これは学問分野別の横の分類と言うことができるでしょう。

第1の分野は,その名もズバリ経営学分野です。企業(一般的な私企業だけでなく,政府系企業も対象として扱われます)の実像を科学的に解明する本分野では,例えば経営戦略,経営財務,経営管理,さらに経営労務(人的資源管理),生産・技術といった,企業の諸活動について理論と実証の両面から研究と教育を行っています。このほか,経営統計や経営数学,ゲーム理論といった経営情報の分析手法や人間行動の行動原理を研究する分野も含まれています。

第2の分野は会計学分野です。企業がどれほどの利益を上げているのか,利益や負債の状態はどうか,製品や活動のコストはいくらか。企業自身だけでなく,企業を取り巻く各種関係者がその業績を判断したり,経営にかかわる意思決定をするにはこれらの情報が不可欠です。会計学分野はこのような情報の作成方法と利用方法を研究・教育しています。

第3の分野が市場科学分野です。伝統的には商学分野と呼ばれていた本分野は,企業を取り巻く市場との関係分析に注目しています。どのような戦略を立てるのか、どのような商品を開発するのか,そして商品の販売、いずれにとっても市場との関係分析が不可欠な課題であることは皆さんもわかるでしょう。さらに特定の産業,とくに今日の経済活動の中でもっとも重視されているサービス産業(第3次産業)について,流通,証券,金融,保険,交通,国際交通,貿易といった分野に分かれて,市場を切り口に実体解明に努めています。

皆さんの自主性を重んじる経営学部では,分野別に必修単位をこと細かに定めるということは行っていません。履修の順序については、第1群から第2群、第3群と履修することを勧める緩やかな指導を行っていますが、分野については皆さんの関心とニーズに応じて自由に設計できるようになっています。また、経営学部とルーツを同じにする経済学部と法学部で開講されている多様な専門科目もそのほとんどが履修可能で、しかも卒業に必要な単位に算入されます(若干のルールはありますけど)。そして、みなさんが所属したゼミナールが経営学分野および会計学分野の場合には経営学の学士号が,市場科学分野の場合には商学の学士号が与えられます。

また,交流協定を結んでいる海外の提携大学に入学料・授業料を負担することなく留学する機会も設けられています。さらに,学部在学中の公認会計士試験または税理士試験合格をめざすだけではなく、早期卒業制度を利用して学部3年+大学院(博士課程前期課程)2年の5年一貫システムに基づき,公認会計士や税理士取得に必要な企業会計の専門知識だけでなく,ビジネス・コンサルティングに必要となるスキル、全般的知識を備えた高度会計専門職業人を育成するための「会計プロフェッショナル育成プログラム」も設けています。このプログラムの詳細については,こちらを参照してください。

授業科目の一例

では,神戸大学経営学部に入学すれば,経営学のそれぞれの分野でどのようなことを学べるのでしょうか。経営学部専門科目の第2群・第3群科目の中からいくつかの授業科目を取り上げて,具体的に紹介してみましょう。(この授業科目紹介は,経営学部が発刊している学部紹介パンフレット「神戸大学経営学部」から抜粋したものです。)

■ 経営管理(第2群)

ひとは,なぜなにごとかに打ち込むのか(モティベーション論),ひとは他の人びととどのようにチームワークをとるのか(グループ・ダイナミクス),他の大勢の人びとをどのようにしてぐいぐいと引っ張っていくのか(リーダーシップ),何万ものひとを調整しながら動かすためにはどのような分業を作り出せばいいのか(組織構造論)等について学びます。会社でいったいなにが起こっているのかについての実例とともに,これらの問いを深く考察することになります。

しかもそれぞれの問いは,学生生活でも経験する身近な問いでもあります。たとえば,クラブ,大学祭,アルバイト,ボランティアなど多様な場面で,大学生活でも経験することに密着した身近なトピックです。

■ 財務会計(第2群)

 みなさんは,新聞やテレビで,「○○会社の今期決算は増収増益」とか「急激な円高のために赤字転落」などの報道をみたことがあるでしょう。財務会計は,会社が過去1年間に行った事業活動(販売,製造,投資など)について,どのくらい儲けたのか(利益の計算),あるいは,今後引き続き発展していくために十分な資金があるのか(財産の計算)などを明らかにします。したがって,財務会計の考え方や方法を学べば,冒頭の報道がどのような意味を持っているか,みなさん自身で判断することが可能となります。

このような身近な報道に代表される,会社の利益や財産に関する情報を理解できるということは,みなさん一人一人が,株式に投資をする,取引先の状況をよく知ったうえで契約を結ぶ,新しい商売を始める,あるいは,会計の専門家として公認会計士や税理士になるなど,重要な意思決定や職業それ自体の選択に結び付く大切な知識を体得することを意味しています。

■ 管理会計(第2群)

企業経営を合理化するには,どのように経営数字を使えばよいのか? 例えば,クルマづくりでいうと,どのようなコンセプト・デザインのクルマを投入していくべきか,そのための工場展開をどのようにすすめるか,こうした決定を正しく行うためには,その決定のコスト的,利益的効果を正しく見きわめることが大切です。さらに,いくらよいコンセプトをつくっても,それが思いどおりに市場に出ないと意味がありません。計画と実際の市場化の進捗状態のギャップをどうチェックしていくかということも大切です。このプロセスをうまくすすめるためには,組織の中のいろいろな人に働きかけていかなくてはなりません。人がこの働きかけにどう反応するかということをあらかじめ考えておかないと,うまくいきません。

これらの問題を,実務の背後にあるロジックを発見するフィールド研究の成果を取り入れながら,解説します。あなたが企業行動を経営数字の側面から把握して,企業活動を合理的にすすめていく能力を養います。

■ マーケティング(第2群)

車やテレビといった「モノ」や,外食やエアラインといった「サービス」の取引を研究します。トヨタや任天堂等の「メーカー」が,消費者にどのような製品を開発し広告するのかといった問題。三菱商事など「卸売業」が,メーカーと小売店の間で,どのような活動を行っているのかという問題。当然,ダイエーやセブンイレブン等の新しい「小売業」がどうして成長してきたのか,あるいは逆に,商店街や百貨店が,なぜ,あまりうまくいかないのかの問題。そして最後に,私たち「消費者」の行動についての問題,例えば,なぜ,ある商品が大ヒットするのか,といった問題。こうした問題を研究します。

みなさんが知っている会社が,市場で何をしているのか,そして消費者がそれに対してどのように行動しているのかを理解するのが,この分野の研究課題です。それを広い立場から研究するやり方と,会社を細かく調べる研究のやり方があります。前者を勉強すれば,「日本は市場が閉鎖的だ,と外国からいわれているが,本当にそうか」といったことがわかります。後者を勉強すれば,「どのような新製品を開発し広告すればよいのか」といったことがわかります。

■ 金融システム(第2群)

お金をもっている人から、ビジネスのためにお金を必要としている人に、お金がどのような仕組みで流れていくのかというわが国の金融制度を学びます。そして商品サービスの生産・消費いう経済のリアルな面が,マネーというビジネスを回すからくりとどのようにつながっているのかを学びます。

たとえば,新しいビジネスのためにより多くのお金が必要になると,限られたお金をめぐって経済のあちこちで競争になります。お金を借りる条件が変わり,経済全体でビジネスの仕方が変わってきます。このお金と実物経済の相互関係を体系的に理解することがこの分野の研究課題です。

日本銀行の金融政策の変更,外国為替市場の変動等々のめまぐるしいビジネス環境の変化を個々のビジネスへのインパクトに結びつけて理解する力,個々のビジネスのその周りのさらに周りを見通して考える力,を身につけることができます。

■ ゲーム理論(第3群)

絶えず変化していくビジネス環境で経営の成否を大きく左右するのは,経営戦略です。しかし,戦略的に決定し,戦略的に行動するとはそもそもどういう事なのでしょうか。リスクにどう対応すべきか,刻々の新しい情報を戦略的行動にどのように反映させるのか,ライバルもまた戦略的に決定しているときに真に合理的な戦略とは何か等を学びます。

単に概念的に考えるだけではなく,厳密な数理的モデル分析(ゲーム理論)を通じて,ライバル同士の戦略的相互依存関係を分析する力をつけます。ライバルを出し抜く天才について語るのではなく,ライバル関係を冷静に分析し,それに応じたベスト戦略を見出す戦略的思考を身につけるということです。

■ 国際経営(第3群)

日本企業は海外各国で事業を盛んに営んでおり,同時に日本国内では多くの外資系企業が活動しています。これら多国籍企業は,国内事業では経験しなかったような事態に直面します。たとえば,リスクの大きい海外投資をいかに決定するかといった問題があります。固有の文化,歴史をもつ従業員を雇用し,生産,販売を行わなければなりません。日本式経営の現地適応が必要です。他方で,多国籍企業には一国企業には得られない優位性が与えられます。例えば世界のどこかで生み出されつつある需要をいち早くキャッチし対応できます。また世界中の優秀な人材をリクルートできます。もっともこうした機会の実現には,それにふさわしい仕組みや企業文化をつくらなければなりません。

国際経営のこうした挑戦的な課題について,歴史的視点をもちつつ,理論的な理解を深めることができるでしょう。

■ Globalization and International Trade(第3群)

自動車はわが国の代表的な輸出品ですが,なぜそうなるのでしょう。日本車の輸出は,我が国にとってもアメリカにとっても望ましいことなのでしょうか。もしそうなら,なぜ貿易摩擦が起こるのでしょうか。世界に展開していく今日の経営に関わるこのような問題を適切に考え,答えることができるように,まず個々の企業,消費者の行動を分析します。そして,多くの国が参加する世界市場において取引される商品の価格と数量がどのように決定されるかを明らかにします。こうして,貿易問題を理解する能力を身につけることができます。

また,世界とつきあううえで不可欠な,妄想にとらわれない冷静な目を養うことができます。例えば,外国製品が低賃金を武器に国内に流れ込むことは輸入する国に損害を与える,という議論は誤りです。しかし,このことは,貿易についての正確な理解があって初めて理解できるでしょう。

卒業後の進路

経営学部生の卒業後の進路は,(1)民間企業へ就職,(2)官公庁等へ就職,(3)大学院へ進学,の大きく3つに分けられます。

(1) 民間企業へ就職:多くの学生は,民間企業へ就職しています。日本を代表する大企業から新興ベンチャーまで,規模においても業種においても多種多様な企業へと就職し、組織のリーダーとして活躍しています。また,在学中に資格試験(公認会計士,税理士等)に合格し,監査法人・会計事務所に就職する学生もいます。

(2) 官公庁等へ就職:国家公務員試験,地方公務員試験に合格して中央官庁,地方自治体に就職し、第一線で活躍しています。また国税専門官等の専門性を活かした職種の公務員となる学生もいます。

(3) 大学院へ進学:研究者になることを希望する学生,また,将来,研究機関やシンクタンク等へ就職することを希望する学生は,大学院に進学します。最近では研究機関,シンクタンク等に就職するには修士号取得が必要とされることがあります。また修士号を取得して民間企業や官公庁へ就職する人も増えつつあります。

経営学部では,キャリア・パスの選択肢を拡げるために,学部の早期卒業制度をもうけています。3年間で卒業に必要な単位数を習得した上で,本人が希望し,教授会が特に優秀であると認めた学生については,推薦入学試験または一般選抜試験を経て3年間で学部を正規に卒業し,大学院に入学することができます。早期卒業を行うと,大学院の2年間と併せ合計5年間で修士と学士の学位を得ることができます。

また,卒業後社会人になってから経営学に関する知識を深める必要性を感じた方には,働きながら学び,日本のビジネス社会の中核となる人材を養成するための,社会人MBAプログラムがあります。社会人MBAプログラムについては,mba.kobe-u.ac.jpをご参照ください (新しいウィンドウが開きます)。

経営学とは

ところで,「経営学」とはそもそもどういう学問なのでしょうか。経済学とはどのように違うのでしょう? 経済学も多様な学問の総称ですが、経営学はそれ以上に多種多様な学問の総称です。そのことは、経営学部の専攻分野の一つに「経営学」分野があること、経営学部と名乗らずに商学部という名称を使っている大学も少なくないこと等から、皆さんも何となく気づかれているかもしれません。以下では、異論を持つ人がいることを承知の上で、経済学(伝統的なというべきでしょうね)と対比しつつ、経営学(正確には狭義の経営学といった方が良いでしょうが)について説明することにします。

経済学と経営学は,ともに社会科学という学問系列に属し,しかもどちらの学問とも,「企業」を主要な研究対象としています。学問の進歩によって近年,そうは簡単に言えなくなってきましたが,伝統的に経済学では,企業の行動について学ぶことがその中心で,政府や家計の役割については大きなウェイトを置いていない傾向にあります。では,経営学は何について学ぶのでしょうか? 実は,経営学も,経済学と同じく,大まかにいえば「企業の行動」について学ぶ学問であるといえます。なんだ,経済学と同じじゃないか,と思われるかもしれません。しかし,経済学と経営学では同じ「企業」を研究対象にするといっても,その見方 ―「企業」を観察する位置・視点― が大きく異なっているのです。

経済学(これまた伝統的な、と書いた方が本当は良いのですが)では,企業を,地上から遠く離れた大空のある一点から眺めてみようとする傾向にある,というように類推してみてください。空から企業を眺めると,どの企業も同じ形に見えます。企業の中で何をやっているのか,誰がどんな顔をして働いていて,いま企業の各部門がどんな状態になっているのかは,直接観察することはできません。企業は,市場という大海に浮かぶ小さな島々のようにイメージできるでしょう(図1)。

このように,企業は生産が行われる場であり,生産物を交換する場である「市場」において企業がどういった役割を果たすかを追求する―これが経済学における企業像です。つまり,「市場メカニズムにおける企業」というのが,経済学での企業の取り扱いであるといえます。

これに対し,経営学では,企業を,企業の建屋からそう遠く離れていない位置,例えば建物の天井のあたりから眺めてみる,と想像してみてください。天井付近から建物の中をのぞくと,具体的にどんな製品をどんな仕組みで作っていて,誰がどんな活動をしているのか,また,いま企業がどんな状態なのか,他の企業と比べてどの企業に元気があるのか,等々の情報をより具体的に知ることができます。企業の中で,ある人は,顕微鏡をのぞいて何やら研究開発をしている,またある人は生産ラインに張り付いて仕事をしている,また別のある人のところにはパソコンの前に集まってミーティングをしている,等々,企業の具体的活動のかなり詳細な状態を知ることができるわけです(図2)。

こういった,企業内部におけるヒト・モノ・カネ・情報等(これらを「経営資源」と呼びます)が具体的に結びついて生産をしていく仕組み,あるいはそこから具体的にモノやサービスが消費されていく仕組みなどについて科学的に学ぶのが経営学なのです。

経営学は「企業」について学ぶ学問だといいましたが,もっと正確にいうと,経営学は企業をはじめとする様々な「組織体」について学ぶ学問が経営学であるといえます。企業は,経営学で最も重要な研究対象のひとつですが,企業以外にもたくさん「組織」はあります。例えば病院,役所,学校,NPO(Non-profit Organization),あるいは皆さんのごく身近にあるクラブ活動やアルバイト先の職場なども立派な「組織体」です。これらそれぞれの組織において,どのように事業が運営されているか(これを「経営」と呼びます)を学ぶのが「経営学」であるといえます。

したがって,経営学では,企業以外のこれらの各種組織も立派な研究対象になりえます。例えば,クラブ活動で、リーダーとしてどういった行動をとれば部員がついてきてくれ,組織全体が活性化するか,などといったことも経営学の重要な研究テーマの1つとなるのです。神戸大学経営学部は「経営」学部であって,「企業」学部ではありません。

「経営学」のことを,英語ではBusiness Administration という,と習った方もおられるかもしれませんが,最近では,特に欧米の大学では,経営学を Management Studies と呼ぶことも多くなってきています。多くの皆さんは,受験英語で,この ’Management’ という語の動詞形は ’manage’ で,後ろにto不定詞を伴って「どうにかこうにか○○する」,「うまくやりくりする」,「首尾よく○○をやり遂げる」というような意味になる,と学んでおられることでしょう。Management の学である「経営学」を学ぶことによって,皆さんは,これから人生のいろいろな局面において,いい意味で,いろいろうまく「やりくり」のできる人間になることができます。これからの人生,山あり谷ありで,いろんな苦労や障壁の連続ですが,そういったさまざまな苦労・障壁の中で,どうにかこうにか首尾よく「やりくり」をしながら,主体的に意思決定をし,自分の頭で考えて行動できるような人間に成長することが,経営学を学ぶことによって可能となるのです。経営学を学ぶということは,ひいては,これからの皆さんの一生を,主体性・責任感をもって,うまく乗り切っていくことができる,その方法を身につけることなのです。したがって,「経営学」はバリバリ働くビジネスパーソンになる人にとってだけではなく,それ以外の多様なコースを目指す人たちにとってもきわめて有用な,「実学」であるといえるでしょう。

(2016.04.01更新)