経済学と経営学は,ともに「社会科学」という学問領域に属し,しかもどちらの学問とも,「企業」を主要な研究対象としています。経済学では,家計や政府などの役割についても部分的に研究対象に含めることがありますが,だいたいは企業の行動について学ぶ学問が経済学であると考えて大きく外れることはないでしょう。

では,経営学は何について学ぶのでしょうか? 実は,経営学も,経済学と同じく,企業の行動について学ぶ学問であるといえます。なんだ,経済学と同じじゃないか,と思われるかもしれません。しかし,経済学と経営学では,同じ「企業」を研究対象にするといっても,その見方 —「企業」を観察する位置・視点— が大きく異なります。

経済学では,企業を,地上から遠く離れた大空のある一点から眺めてみようとする,というように類推してみてください。空から企業を眺めると,どの企業も同じ形に見えます。企業の中で何をやっているのか,誰がどんな顔をして働いていて,いま企業の各部門がどんな状態になっているのかは,直接観察することはできません。企業は,市場という大海に浮かぶ小さな島々のようにイメージできるでしょう(図1)。このように,経済学では通常,企業の中身までは詳細に踏み込んで検討されることはありません。企業は生産が行われる場であり,生産物を交換する場である「市場」において企業がどういった役割を果たすかを追求する—これが経済学における企業像です。つまり,「市場メカニズムにおける企業」というのが,経済学での企業の取り扱いであるといえます。

これに対し,経営学では,企業を,企業の建屋からそう遠く離れていない位置,たとえば建物の天井のあたりから眺めてみる,と想像してみてください。天井付近から建物の中をのぞくと,具体的にどんな製品をどんな仕組みで作っていて,誰がどんな活動をしているのか,また,いま企業がどんな状態なのか,他の企業と比べてどの企業に元気があるのか,等々の情報をより具体的に知ることができます。企業の中で,ある人は,顕微鏡をのぞいて何やら研究開発をしている,またある人は生産ラインに張り付いて仕事をしている,また別のある人のところにはパソコンの前に集まってミーティングをしている,などなど,企業の具体的活動のかなり詳細な状態を知ることができるわけです(図2)。こういった,企業内部におけるヒト・モノ・カネ・情報等(これらを「経営資源」と呼びます)が具体的に結びついて生産をしていく仕組み,あるいはそこから具体的にモノやサービスが消費されていく仕組みなどについて科学的に学ぶのが経営学です。

経営学は,「企業」について学ぶ学問だといいましたが,もっと正確にいうと,経営学は企業をはじめとする様々な「組織」について学ぶ学問が経営学であるといえます。企業は,経営学で最も重要な研究対象のひとつですが,企業以外にもたくさん「組織」はあります。たとえば病院,役所,大学,NPO,あるいは皆さんのごく身近にあるクラブ活動やアルバイト先の職場なども「組織」です。これらの「組織」において,どのように事業が運営されているか(これを「経営」と呼びます)を学ぶのが「経営学」であるといえます。したがって,経営学では,企業以外のこれらの各種組織も立派な研究対象になりえます。たとえば,クラブ活動でどういったリーダー行動をとれば部下がついてきて,クラブ組織全体が活性化するか,などといったことも経営学の重要な研究テーマの1つとなるのです。神戸大学経営学部は「経営」学部であって,「企業」学部ではありません。

「経営学」のことを,英語ではBusiness Administration という,と習った方もおられるかもしれませんが,最近では,特に欧米の大学では,経営学を Management Studies と呼ぶことの方が多くなっています。高校生の多くの皆さんは,受験英語で,この ‘Management’ という語の動詞形は ‘manage’ で,後ろにto不定詞を伴って「どうにかこうにか○○する」,「うまくやりくりする」「首尾よく○○をやり遂げる」というような意味になる,と学んでおられることでしょう。Management の学である「経営学」を学ぶことによって,皆さんは,これから人生のいろいろな局面において,いい意味で,いろいろうまく「やりくり」のできる人間になることができます。これからの人生,山あり谷ありで,いろんな苦労や障壁の連続ですが,そういったさまざまな苦労・障壁の中で,どうにかこうにか首尾よく「やりくり」をしながら,主体的に意思決定をし,自分の頭で考えて行動できるような人間に成長することが,経営学を学ぶことによって可能となるのです。経営学を学ぶということは,ひいては,これからの皆さんの一生を,主体性・責任感をもって,うまく乗り切っていくことができる,その方法を身につけることなのです。したがって,「経営学」はバリバリ働くビジネスパーソンになる人にとってだけではなく,それ以外の多様なコースを目指す人たちにとってもきわめて有用な,「実学」なのです。