会計情報のファンダメンタル分析

著者名 桜井久勝・音川和久 編著
タイトル 会計情報のファンダメンタル分析
出版社 中央経済社 2013年3月
価格 3400円+税

書評

本書は、企業が公表した実績会計情報が、将来の業績予測にどのように役立つかについて、実証的に分析した共同研究の成果です。

分析された実績会計情報は、金融商品取引法に従って企業が作成し公表する財務諸表と有価証券報告書に収録されている多種多様な会計情報のうち、次の10項目です。①棚卸資産の増減、②実施された設備投資、③企業結合で生じたのれん、④キャッシュフロー情報が示すライフサイクル、⑤実施された資金調達、⑥特別損失の計上、⑦会計利益と課税所得の差額、⑧ゴーイング・コンサーン情報、⑨受注残高の増減、⑩実施された配当政策。

会計基準形成の基礎をなす財務会計の概念フレームワークでは、投資者による将来業績の予測と企業価値評価に役立つ情報を提供することが、財務報告の基本目的とされています。もちろん営業利益や当期純利益などの実績利益そのものが、予測の出発点となって、将来の年度の業績予測に役立つことはいうまでもありません。しかしそれがゆえに、過去の実績利益だけを基礎として予想された将来の業績は、公表前の早い段階から株価形成に織り込まれていることが、先進国の市場で共通して確認されてきました。この事実が、将来の業績予測に役立つ各種の情報の提供と利用を、ますます重要なものにしているのです。本書はまさにこの視点に立ち、財務諸表や有価証券報告書において利益以外にも多様な情報が提供されていることに着目し、会計利益以外の情報を積極的に活用することによって、より良い予測がもたらされる可能性を探究しています。

本書の各章では、さまざまな会計情報が分析されますが、そこには次の2つの共通点があります。第1は、特定の会計情報とその後の将来業績との関連性の調査に、統計的な実証分析の手法を用いていることです。科学的に厳密な分析結果の提示により、投資者がリスク負担の一環として行う不確実な将来業績の予測が改善され、的確な企業価値評価に基づいた投資者行動の更なる普及を通じて、証券市場の健全な発展に寄与することが、著者たちの共通の願いです。

本書の第2の特徴は、会計情報を用いたファンダメンタル分析の有用性を検討するために、実証分析のみならず事例(ケース)分析も併用している点です。実証分析の理解に不可欠な統計的知識が十分でない読者にも、各章のエッセンスをわかりやすく伝えたいと考えています。

    目次
    第1章  本書の課題と構成(桜井久勝・音川和久)
    第2章  棚卸資産と将来業績の関連性(行待三輪・髙田知実)
    第3章  設備投資と将来業績の関連性(内川正夫・音川和久)
    第4章  のれんと将来業績の関連性(増村紀子・奥原貴士)
    第5章  キャッシュフロー情報による企業ライフサイクルの識別と将来の収益     性への含意(山下和宏・土田俊也)
    第6章  企業の資金調達活動と将来業績の関連性(若林公美・桜井貴憲・與三     野禎倫・石光裕)
    第7章  特別損失の計上頻度による将来業績予測(池田健一・北川教央・小谷     学)
    第8章  会計利益と課税所得の差額情報による将来業績予測(池田健一・金光     明雄・北川教央・音川和久)
    第9章  GC予測と将来リターンの関連性(浦山剛史・村宮克彦)
    第10章  受注残高情報と将来業績の関連性(小野慎一郎・村宮克彦)
    第11章  配当政策と将来業績の関連性(石川博行)

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