危機の時代の「やる気」学

著者名 金井壽宏 著
タイトル 危機の時代の「やる気」学
出版社 ソフトバンク クリエイティブ 2009年6月
価格 1700円 税別

書評

この書籍は、わたしにとっては、3冊目のモティベーションの書籍となります。大元は『ビジネスインパクト』という雑誌における連載に端を発します(さらに、とことんルーツを探れば、わたしの修士論文にまで遡ります)。1冊目では、多種多様なモティベーションの諸理論があることを紹介しながらも、読者に、自分で自分のやる気を自己調整できる人間になるために、自分のモティベーション持論をもってほしいという主張をおこないました(『働くみんなのモティベーション論』NTT出版、2006年)。ところが、学者が構築したモティベーションの諸理論をきちんと紹介すると、けっこう難しく、読みづらい書籍になってしまいます。わたしが敬意を払う大塚製薬の人事部のある部長さんには、神戸大学をお訪ねの折に「先生、この本読めるぐらいなら、やる気に問題なし、ですね(それくらい、読むのに根気がいりますという意味合いで)」と言われました。

そこで、次の2冊目では、やる気というテーマは身近なものですので、できる限りわかりやすい書籍をめざしました。自分のモティベーションの持論を書いてみるということを主眼に、理論の紹介はやめて、ひたすらわかりやすさをめざした書籍にしました。短期、あるいはキャリア全体を通じての、イキイキ度のアップダウンを振り返ったり、チャートに実際に描いてみたりすること、持論を原稿用紙一枚までで文章でまとめてみたりすることなどの効果を、提唱しました(『やる気!攻略本』ミシマ出版、2007年)。

その後、わたしは本格的にポジティブ心理学と、それの組織行動への応用(ミシガン大学ではポジティブ組織研究、ネブラスカ大学ではポジティブ組織行動論と呼ばれています)に興味を抱くようになりました。実際に、神戸大学経営学研究科とゆかりのNPOである現代経営学研究所でも、ポジティブ心理学を組織・人事に応用するための、人勢塾(じんせいじゅく)という連続8回の実践的な研究会を実施しました。この書評でとりあげる3冊目のモティベーションにまつわる自著で、初めて、先の2冊でも下地となった連載をそのまま部分的には生かすことにして、入れ込みました。それに加えて、ポジティブ心理学に刺激を受けて、考えが進んだ部分を大幅に書き下ろしました。さらに、本書の実現のために、大型助っ人として、経済産業省のリーダーシップ人材の育成をめぐる委員会でもご一緒している明治大学の野田稔氏に貴重な対談の機会をいただきました。ひとりだけで悶々と考えていてもらちの開かない扉をいっぱい開けていただきました。そのおかげで、モティベーションの問題を持論による自己調整の問題に加えて、周りの人びとのモティベーションに影響を与えるリーダーシップの役割にも、焦点を合わせるようにしました。

この3部作で一段落です。3冊目は、リーマンショック以後の厳しい時代に入ったタイミングで世に問う書籍となりました。そのような時代こそ、前向きにやる気に働きかけることができるリーダーが大事だということを、少しでもうまくお伝えすることができていることと祈りたいです。経営学におけるモティベーション論の最高峰のひとり、トロント大学のゲイリー・レイサムの『ワーク・モティベーション』がまもなく上梓されるので、それが出れば、4部作1セットとなります。大学にいる教育者として、自著以上にこれが出るのも楽しみに待っています。

目次

第1章 “やる気”の原動力は、緊張と希望のブレンド
第2章 いま必要とされるリーダーシップ
第3章 今、あなたは何にコミットするのか
第4章 持論を補強する九つの理論
第5章 組織を活性化させるための方法論
第6章 神なき時代のリーダーはいかに育つのか