リーダーシップ入門


著者名 金井壽宏
タイトル リーダーシップ入門
出版社 日本経済新聞社 2005年3月
価格 1000円 税別

書評

日経文庫のラインアップを見て、常々リーダーシップの本がないのを不思議だと指摘される読者が多数おられます。経済や経営のたいていの重要なトピックについて、手軽に読めるのがこのシリーズの特徴なのに、確かに不思議なことでした。日経文庫には以前にも『経営組織』( 1999 年)を出してもらっていますので、よく出版・編集担当の方と話をします。そのようななか、だれがリーダーシップを書くのがいいのかよく議論してきました。たとえば、最近は野中郁次郎先生が発表のときに、知識創造と場づくりの観点からよくリーダーシップの話をされるのでいかがとか。あるいは、心理学系では九州大学の古川久敬先生がもっとも信頼され尊敬される研究者なので、もっとも適任でしょうとか。結局は、相談を受けていたわたしが書くことになりました。

処女作の『変革型ミドルの探求』(白桃書房、 1991 年)も、リーダーシップの本でしたが、リーダーシップは、わたしにとって、長いつきあいのなじみのテーマです。だから、うすい新書版なら簡単に書けそうだと思ってスタートしましたが、途中もまた仕上げ段階も、けっこう苦労しました。よく知っているから簡単に書けるのではなく、よくこだわっているテーマだから書くのにへとへとになるという面があることがわかりました。それは、このテーマの深さ、魅力の証でもあります。 200 頁刷り上がりのところ、 470 頁分書いてしまいましたので、そこから削除して、おまけで 320 頁の書籍にしてもらうこととなりました。

この『リーダーシップ入門』の最大の特徴は、リーダーシップをどのようにして身につけるかという点に大きなウエイトを置いたことです。そのためのキーワードは、経験と観察の内省、実際の経験や観察と、理論や持論との摺り合わせです。自分の経験を内省し、そこから教訓と持論を引き出し、それだけでは足りない部分は、リーダーシップ発揮の達人と思われるひとからその持論を聞き出し、それを経営者が書籍等で残している超ド級の達人の持論や、定評あるロバストな理論と結びつけることの重要性を随所で強調しました。

ただ鑑賞するように読んでしまうとなにも身に付きませんので、重要なテーマが出る度に、読んでいただいているひとたちの経験と照合するためのエクササイズを散りばめました。それらがお役に立つことを祈りたいです。

これから先、次の著作でも継続してリーダーシップの問題を扱っていく予定です。今後は、はじめて管理職になってさらにスケールが大きくなるための課題として、また、企業の経営者や人材開発部門にとっての事業経営責任者(とその候補)に対するリーダーシップ育成の課題として、いったん入門したリーダーシップをさらに深めていく著作を引き続き出していきたいと決心しています。あわせて、本書では実践者の持論の紹介が長く、多種多様で百家争鳴のリーダーシップの理論のほうの紹介が十分でなかったので、そのあたりもさらに別の著作で挑戦していく予定です。

その一里塚として、本書がおおいに広く受けいれられると望外の喜びです。リーダーシップを目指すひと、すでにとれているがさらにリーダーシップに磨きをかけたいひとから、様々なフィードバックが本書に対して得られることを期待しておりますので、よろしくお願いします。

目次

Ⅰ いかなる意味での「入門」なのか
Ⅱ リーダーシップの学び方を学ぶ
Ⅲ リーダーシップの定義とリーダーシップを見る視点
Ⅳ 実践家のリーダーシップ持論
Ⅴ 研究から生まれたリーダーシップ理論-貫く不動の二次元-
終章 リーダーシップを身に付けるために