洗脳するマネジメント-企業文化を操作せよ


著者名 金井壽宏 監修・解説 ギデオン・クンダ 著 樫村志保 訳
タイトル 洗脳するマネジメント-企業文化を操作せよ
出版社 日経BP社 2005年8月
価格 2200円 税別

書評

この本は、わたしにとっては非常に思いの深い書籍です。調査がなされた時期に、わたしは著者のすぐ近くにいて、当時、リアルタイムで、その進行状況を聞いていました。文化人類学者が未開民族のフィールド調査をして、エスノグラフィー(民族誌)を書くのと同様に、組織社会学者がハイテク企業の内部に入って参加観察して、組織エスノグラフィーを書く。このようなことは、わが国の組織研究ではこれまでまれだった。わたしは、組織をその成員が生きるままのビビッドな姿で記述する方法は、エスノグラフィーだと信じている。

にもかかわらず、組織エスノグラフィーも見本や、できるなら手本になるような作品の邦訳がないと、「これを読めば?」と薦めるものが少ないのがこれまでの現状だった。だから、樫村志保さんというすばらしいプロの翻訳者を得て、今回、このようにかなり読みやすい形で、テック社 ( 偽名 ) の組織エスノグラフィーが出たことをとてもうれしく思っている。

エンジニアにとってパラダイスのようなハイテック企業だが、そこでは、文化そのものもエンジニアリングの対象となっているかのごとく、それが微妙なコントロールのツールとして使われている。その姿がいきいきと描かれている。

わたしも、著者ギデオン・クンダへの友情から、かなり長い熱い解説をつけたので、本文を読み終わったらこれにも目を通してほしい。

残念ながら、今年の MBA の講義では、エスノグラフィーを取りあげたところで、これまででもっともさえないセッションになってしまった。自分が所属している組織について、そのままなんの工夫もなくエスノグラフィーを作成するのは確かに難しいと思うが、少なくともこのような質的(定性的)調査方法があることを、この出版を機会に、より大勢のひとに知ってもらえるようになれば、うれしい。

目次

プロローグ
第1章 文化と組織
第2章 環境
第3章 イデオロギー-目に見えるテック文化の教典
第4章 呈示儀礼-イデオロギーを語る
第5章 自己と組織-「黄金の雄牛」の陰で
第6章 結論
エピローグ

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