マーケティングの神話


著者名 石井淳蔵
タイトル マーケティングの神話

書評

みずから (企業/資本/マーケター) が創り出す市場需要に、みずからを適応させていく。 これがマーケティングの本質となるプロセスだ。「みずから適応すべき実体を、 みずからが創り出す」のだから、そのプロセスは自己言及的で、必然的に矛盾を孕んでいる。

消費者のニーズといった実体がまずあって、それに適応することが仕事だというのであれば、 おそらく現場のマーケターの苦労も少ない。消費者が何を欲しいかを調べ、それを技術に翻訳し、 新商品の特徴を消費者に正確な言葉で伝えれば済む。しかし、現実はそんな単純ではない。 新商品の広告は消費者によって違った意味に受け取られる。新商品についても、 狙った消費者ターゲットが、提案通りの使い方をするとは限らない。消費者は、個々の生活に合わせて、 マーケターが提供する広告・製品を読み替えるのだ。

「消費者が読めない」というマーケティング現場の声をよく耳にするが、 それはたんなるマーケターや経営者の愚痴ではない。冒頭述べたように、それはマーケティングの本質的プロセスの現れなのである。 マーケターあるいは経営者のそうした悩みをそのものとして理解するためには、 研究者側によほどの理論的準備が必要なのだ。

本書は、マーケティング・プロセスのそうした理解に基づいて、マネジメント、コミュニケーション、競争、 消費、交換、そして科学方法論というマーケティングを研究する上で最も基本的な概念を、 正面からラディカルに再検討する試みである。(日本経済新聞社から1993年に出版された書の文庫版)

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