踊る大捜査線に学ぶ組織論入門


著者名 金井壽宏 田柳恵美子
タイトル 踊る大捜査線に学ぶ組織論入門
出版社 かんき出版 2005年9月
価格 1500円 税別

書評

経営学とは縁遠いと思っている人びとが、若い人びとの間ではまだまだ多いと思う。確かに若くして、経営の立場でものを考えるというのは難しい(それでも、若い間に起業するひとも増えてきた)。しかし、組織のなかで働くひとりひとりの視点で、経営組織について学ぶこともできるはずだ。

管理職や経営者になる前にも、ひとは様々な形で組織に接する。フルタイムで働き出す前でも、生徒、学生として学校や大学という組織と、体調が悪いときには、患者として病院という組織に接する。官僚制的だと思うこともあるだろうし、現場の教師や医師・看護士のなかには、献身的なひともいることに気づくこともあるだろう。

やがて、フルタイムで勤務するようになると、大半のひとは従業員として勤務先の組織に接する。そこで様々な組織現象方に出会う。管理職になる前からも、組織というのはどういう振る舞いをするのか、組織が動くというのは言葉のあやだから、チームがどのような動きをするのか、どのようにコミュニケーションが起こり、対立がどんな具合にしておこっていくのか、経験から学び始める。正式に、モティベーション論やリーダーシップ論を学ばなくても、ひとはなぜ働くか、ひとはどうすればついてきてくれるのかについて、自分なりの洞察をもっているはずだ。ほしいのは、それを説明する概念と、自分が生きるままの組織以外にも、具体的な説明の素材があることだ。

経営学のなかでも、組織論は身近な領域なので(わたしはそう信じているので)、できることなら「みんなの組織論」、「だれもの組織論」であってほしいと思う。働くひとりひとりの立場から書いた組織論としては、かつて日経文庫に『経営組織』という本を書かせてもらったことがある。分かりやすく書いたつもりだが、それでも、もっとわかりやすく、もっとおもしろく、もっと具体的にという声を耳にした(とくに、これをテキストとして若いひとに、組織論を教えておられる人びとから、そう言われたことがある)。

テレビシリーズでも人気のあった『踊る大捜査線』がさらに二作の映画でブレークしたときに、この映画のいろんなシーンやそこでの台詞について、語る人びとに出会うことがよくあった。「事件は会議室で起きているんじゃない、現場で起きているんだ」という言葉は、ミドルからも、若手からも、学生からも、そして子どもからも聞いた。組織の生のありようを考えるときに、鍵となるシーンが豊富で、また、考えさせられる台詞、心に残る言葉の多い映像だと思った。映画第 2 作『レインボーブリッジを封鎖せよ!』のリリース後、プロデューサーの亀山千広さんにインタビューさせていただく機会があったが、そのときに、「この映画は、組織論のつもりで制作しました」という制作意図のひとつをお聞きした。

そこでいっきに、これを素材にわかりやすく、具体的で、おもしろい組織論が書ければという希望が大きくなってきた。自分では、どの程度読みやすい本になったのか、なかなか判断できないが、できれば大勢のひとに、これを機会に、組織論が身近に感じられるようになったら、それを長らく研究・教育してきた人間としてとてもうれしいことだ。

MBA の方々にも、組織のなかの人間行動について考察するツールボックスを豊かにするために、素材が『踊る大捜査』というのもなかなかいい素材だと感じて下さったら、ありがたいことだ。なお、亀山千広さんとの対談は、この本には再録されなかったが、興味のあるひとは拙著『ハッピー社員-仕事の世界の幸福論』(プレジデント社)をご覧いただきたい。

あとがきでも書いたが、思えば、わたしの恩師のひとり、ジョン・バン・マーネン教授は、ユニオン市警を参加観察研究した警察組織の研究家としても名高いひとだった。この本を出すことになったのもいろんな偶然のおかげだが、そういう縁も感じた。

目次

第1章 組織のダイナミズム
第2章 組織とミッション
第3章 組織のカタチ
第4章 組織とリーダーシップ