近代製糸業の雇用と経営


著者名 榎一江
タイトル 近代製糸業の雇用と経営
出版社 吉川弘文館 2008年3月
価格 11000円 税別

書評

かつて、製糸業は日本の経済発展を底辺で支える基幹産業であり、製糸工女は近代産業で働く工場労働者の代表的存在であった。彼女らの働き方を通して、工業化過程における労働者の意識に迫ることが、本書の課題である。とはいえ、労働者意識を雄弁に語る資料はそう多くない。本書は、戦前期を通して多くの女子労働者を雇用し続けた一つの経営に焦点を当て、その経営資料をもとに、労務管理の形成とその変遷から、労働者をどのような存在ととらえ、どう対応したのかを明らかにすることによって、上記課題に接近する。

対象となる郡是製糸株式会社は、1896年に京都府何鹿郡に成立し、第一次大戦期を通して経営規模拡大を遂げ、多工場経営を行ったことで知られる。経営規模を拡大させた大正期には、その「労働政策」が注目を集め、昭和恐慌期には多くの製糸経営が破たんする中で拡大を続けた「製糸独占資本」であり、戦後にも経営を存続させた数少ない製糸経営でもあった。こうした経営において形成された雇用関係がどのような変遷を遂げたのかを実証的に解明し、雇用をめぐる「会社」と「社会」の歴史的な相互関係を描く。

目次

序章  課題と方法
第1章 「優等糸」生産体制の確立
第2章 大正期の「模範的工場」
第3章 「職工改革」と採用管理の形成
第4章 機械化と雇用関係
第5章 植民地工場の雇用関係―朝鮮工場経営の「失敗」―
終章  雇用関係とその基盤