米国国内市場における低費用キャリアが市場に与えた影響の実証分析: 3 社寡占航空市場のケース

要約

本稿は、低費用航空会社(以下 LCC )の市場への参入により、ライバルの運賃と輸送量がどのような影響を受けるかを、寡占経済理論と計量経済学的手法により分析している。対象とした市場は 1998 年の米国国内市場で、 LCC 1社、大手ネットワークキャリア(以下 NTWC ) 2 社の、合計 3 社からなる寡占市場である。ここでいう 3 社寡占市場には、 3 社が同一 OD 市場で競争するケースのみならず、 LCC が大都市第2空港に参入して、メインの空港で操業する NTWC2 社と競争するようなケースも含む。

ベースとなる理論モデルは、既存の研究同様クールノー競争を仮定している。 LCC の競争戦略は、言うまでもなく低費用のアドバンテージを生かした低運賃戦略と、ノーフリルサービスを提供することによるサービス差別化戦略である。この 2 つの戦略変数をクールノーモデルに新たに取り込み、クールノー・ナッシュ均衡解を元に需要関数と運賃決定関数からなる構造方程式を構築し、これらを 2SLS ( 2 段階最小 2 乗法)で推定した。

サービス差別化戦略の効果(以下 (1) と (2) )と低運賃戦略効果(以下 (3) )に関する推定結果は下記のとおりである。

• (1) 直接的競争の場合、 LCC のライバル 2 社の運賃は低下する。輸送量は増加もしくは微増す
  (2) 間接的競争では、 LCC のライバルの運賃は低下または微減、輸送量は微増する。
  (3) LCC が低運賃設定実現のため低費用を保持し、市場における 3 社の限界費用水準が大きくばらつく    ほど、市場の平均運賃は低下する。

(1) と (2) に関して、差別化が有意にライバルの輸送量を増加させる例が 1 件だけエア・トランの直接的競争の場合と、 6. 2 %の有意水準であるけれどもサウスウエスト航空の間接的競争の場合に存在した。これは理論分析での符号条件と異なる結果である。これを解釈すると、エア・トランの参入により、市場全体の規模が拡大(つまり需要曲線全体が右上にシフト)し、本来減少すべきライバルの輸送量も増加していると考えられる。サウスウエスト航空の間接的競争の場合も同様の効果が現れているのであろう。

以上の実証結果をかんがみると、 LCC が NTWC に対してサービスの差別化をはかり、また低費用化を推進するほど、経済厚生的には望ましい方向に向かうと考えられる。

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村上英樹

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