固定資産の減損会計へのリアル・オプション・アプローチ

要約

わが国の減損会計基準では、減損の兆候がある資産または資産グループについて減損損失を認識すると判定された場合 、減損が生じた固定資産の帳簿価額は、回収可能価額(正味売却価額と使用価値のいずれか大きい方)まで切り下げられる。企業が有する選択肢は売却か継続使用である。このとき、回収可能価額の測定は、企業にとって固定資産がどれだけの経済的価値を有しているかを算定するとされる。ここでは、静的なNPV法による測定が想定されている。しかしながら、企業の生産設備の拡張や売却といった意思決定には、先送り可能な柔軟性がある。そこで本稿では、この柔軟性を考慮した、動的なリアル・オプション法による資産価値の測定を試みる。このとき、企業が合理的であれば選択するであろう行動とは異なった資産の測定属性が選択され得る可能性が指摘される。しかしながら、リアル・オプション法による資産価値の測定には、つぎの会計が克服すべき課題がある。リアル・オプション法による資産価値は、伝統的なNPV法による価値と柔軟性の価値の合計からなる。このとき、主観的な将来キャッシュ・フローの見積りを基礎としてNPVを算定した場合には、そこには自己創設のれんが混入するであろう。また、企業が有する柔軟性の価値は、当該固定資産のみならず、知識、ノウハウ、技術等の joint resource をも源泉とする。このとき、その評価にも自己創設のれんが混入するであろう。

キーワード:
減損会計、リアルオプション、オプション評価モデル、NPV法、ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法

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與三野禎倫

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