損保の株価パズル

要約

本稿は、日本の損害保険会社の株価が、その純資産価値に対して割安な水準にあり、しかもそのディスカウントが、1990年代初めから10年以上にわたって修正されなかったことに注目している。分析の結果、このような割安な株価が長期に観察されたのはいくつかの要因が重なっていた。主要な要因としては、 1996年以前において資産売却益を配当可能利益として認識できないという損保業界に固有の会計方針の存在、裁定取引を担うはずの合理的投資家の不在あるいは機能不全、未成熟なM&A市場の存在などがあげられる。規制などが制約要因となって買収リスクが実質的に存在しなかったため、純資産価値は株価指標として投資家によって強く意識されず、したがって裁定取引も機能せず、損保業界全体の株価の歪みは長期間継続したと言えるだろう。自己資本充実のための株主還元規制は、損保業界から本来の資本コストでの資本調達を阻害した可能性がある。

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井上光太郎

加藤英明

山崎尚志

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