日本のM&A案件におけるファンダメンタル価値と 市場価格に関する実証分析

要約

M&Aは,企業価値評価がきわめて重要な位置を占める経済活動の1つである。M&Aの場面では,コア事業を強化する経営者とファンダメンタル分析を専門とする投資ファンド等の方が資本市場よりはるかに多くの情報を保有しており,より正確に企業価値を算定することによって市場のMisvaluationを補正する役割を果たしている可能性もある。
本稿では,日本で生起したM&A 案件をサンプルとして,内在価値と市場価格の差に着目した合併・買収アービトラージの観点から,つぎの2つを実証的に分析している。第1は,M&Aの対価選択の合理性,すなわち市場価格が過大(過小)に形成されている企業が対価として株式(現金)を選択しているか否かである。第2は,企業価値評価モデルによるファンダメンタル価値から判断して市場価格が過小な銘柄を購入し,市場価格が過大な銘柄を売却する投資戦略が,有意にプラスの超過的な投資収益率を生み出すか否かである。
本稿における実証結果は,とくに第2の観点について,企業価値評価モデルによるファンダメンタル価値を基礎とした投資銘柄の選択が,有意にプラスの超過的な投資収益率を生み出すことを証拠づけている。この事実は,効率性の高い市場での部分的なアノマリーの存在の可能性を示唆するとともに,経営者等によって実施されるM&A は,資本市場での価格形成の誤りを短い期間で矯正して補正する役割を果たしているというシナリオを示唆する。

キーワード
M&A,企業価値,残余利益モデル,アービトラージ,アノマリー

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與三野禎倫

島田佳憲

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