ストック・オプション報酬の費用化と導入企業の属性分析/市場の評価

要約

本稿は,ストック・オプション費用の強制適用に着目し,第1に,ストック・オプション導入の決定要因を,とくに減益と赤字転落に着目して分析する.Burgstahler and Dichev (1997)を端緒とする先行研究は,企業経営者が顕著に減益および損失の回避を実践していることを発見している.本稿は,ストック・オプション費用の強制適用後は,企業経営者は減益を回避するためにストック・オプション導入を控える傾向があること,一方,赤字転落のおそれがある場合には,ビッグバス仮説が顕著に当てはまり,報告利益を押し下げるストック・オプションを積極的に導入していることを報告する.第2に,ストック・オプション導入に対する市場の短期反応を分析する.Watts and Zimmerman (1986)が主張する機能的固定化仮説は,たとえストック・オプションの多くが費用の損金算入が課税所得で認められない非適格オプションであったとしても,市場参加者は報告利益を押し下げるストック・オプション導入をネガティブにとらえる可能性を示唆する.本稿は,ストック・オプション費用の強制適用後において,我々の予想とは反して市場参加者はストック・オプション導入にポジテティブに反応していることを報告する.この傾向は新興市場においてより顕著である.そこで本稿は,第3に,市場参加者は,ストック・オプション費用の強制適用後におけるストック・オプションの導入に関して,将来の収益性に対する経営者の自信の表れを読み取っているのではないかというシグナリング仮説を検証した.我々の検証結果は,とくに新興市場において,このシグナリング仮説と整合的であった.すなわち,ストック・オプション費用の強制適用後において,市場参加者は新興企業のストック・オプション導入を企業経営者の将来の収益性の増進に関する自信の表れとして受け取っている.

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鄭義哲

與三野禎倫

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