グローバリゼーションと会計基準の同型化

要約

 本稿は,IASBやFASBという権威によって会 計制度は強制的に同型化する圧力を受けるとともに,目的適合性や信頼性(または表示の忠実性)といった財務報告の目的が抽象的であること に起因して会計制度が同型化する傾向があることを理解しつつも,その背景にある国際会計基準が正統性(legitimacy)を獲得するプロセス に着目することによって,わが国の社会的・経済的な価値観に合致した会計基準のグローバリゼーションに向けてのひとつの可能性を探る.

 企業の事業活動およ び資金調達が国際化するに伴って,多国籍上場企業は財務諸表の比較可能性を確保する必要性がある.また投資者の証券投資がグローバル化 し,わが国の外国人持株比率も25%を超えているなか,わ が国会計基準で作成した財務諸表のみを公表するだけでは正統性を獲得できない.そこでは財務諸表の利用者である外国人投資者がプラグマ ティックな利益を獲得できないのみならず,その財務諸表には生来的に理解可能性がない.

 そこで,わが国会計 基準の国際会計基準への同型化とは異なるひとつの解決策は,わが国独自の見解を国際会計基準に反映するために,ASBJが,FASBと同様に,国際会計基 準の適切なデュープロセスや意思決定主体に公式に関与できるように積極的に働きかけることである.しかしながら,このような公式的な関与 の戦略を通じたコンバージェンスを選択することは,財務諸表がわが国独自の取引慣習や社会や経済での価値観のみを反映したものではなくな ることを意味する.このとき,わが国の企業経営者や投資者といった会計フィールドの構成員がその財務報告を理解可能かが問題となる.

 わが国の企業経営者 や投資者等の社会的・経済的な価値観が,国際会計基準が指向する具体的実在量としての利益を理解可能なものとして受容できないときのもう ひとつの解決策は,わが国の会計基準と国際会計基準との主要な差異を調整勘定の形で開示することによって,わが国の財務諸表に国際会計基 準との比較可能性を担保することである.ここには,多国籍企業の経営者の国際的な資金調達時の,また外国人投資者の投資判断時のプラグマ ティックな利益がある.また開示方法の工夫によって理解可能性も確保される.もちろん調整勘定による補完計算書の開示は,国際的な意思決 定主体への積極的な関与によって,その手続きの承認を得ていく必要はあるが,それは可能であろう.わが国の財務報告は長期・平均的な利益 を指向しているために,国際会計基準の具体的実在量としての利益指向とは異なる.したがって,積極的な関与によって,わが国のアプローチ が国際的な意思決定主体に社会的に価値のあるものとして受容されることが重要である.

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與三野禎倫

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