会計史研究の国際比較―The Accounting Historians Journal とAccounting History との比較分析から―

要約

会計史研究の嚆矢は必ずしも定かでないが,イギリスの文献を例に取れば,17 世紀前半に刊行された Richard Dafforne の簿記書 The Merchants Mirrour:・・・・ (1635) に求めることができる。そこには,“Opinion of Book-Keepings Antiquity”と題する論稿が収載されていたが,ただし,それはわずか1頁にすぎなかった。会計史が単行本において取り上げられるようになるのは,1852 年に 刊行されるBenjamin F. Foster のThe Origin and Progress of Book-keeping:・・・・ を待たなければならない。他方,わが国では,明治初期に複式簿記を中心とする洋式簿記の導入を目的とした簿記解説書が数多く出版されるが,これとほぼ同時期に会計史に関する著作も出現する。曽田愛三郎(編輯)『学課起源畧説』(1878) に収録された「記簿法 Book-Keeping」と,海野力太郎(纂譯)『簿記学起原考』(1886) である。前者がわずか3 頁強の論稿であるのに対して,後者は会計史を専門的に取り上げた単行本であり,先に言及した Foster の著書に次ぐ,世界で第二番目のものと位置づけられる(1)。このような先駆的な業績をふまえて,わが国においても会計の歴史研究が芽生え,会計史に関する著作が徐々に出現するようになる。筆者たちは,これまでに3 度にわたり科学研究費補助金の交付を受け,会計史に関する著作のうち,わが国でもっとも長い歴史を有する会計専門学術誌である『會計』に掲載された研究論文等,および,わが国唯一の会計史専門学会である日本会計史学会の『日本会計史学会年報』(以下,『年報』と略記)に掲載された研究論文等の中から,会計史に関連する文献を抽出し,それぞれの研究論文等において考究されている内容を分析して,データベース化を進めてきた。これらの成果については,既に,科学研究費の研究成果報告書とは別に,中野・橋本[1999]; 中野他[2004]; 中野・橋本[2005]; 中野他[2006]; 中野他[2008]; 中野他[2009a]; 中野他[2009b]; 中野他[2013]; 澤登[2013]において公表している。これらの研究では,わが国における会計史研究の現在までの趨勢的な傾向について,『會計』と『年報』に掲載された研究論文等を史料に用いて分析してきた。これに対して,本2稿における研究は,上掲した一連の研究を継承し,かつ,目を海外の会計史研究に転じ,海外の学術誌に掲載された会計史にかかわる研究論文等それぞれの考究内容について,わが国を対象とした従前の研究と同様のアプローチに拠って分析を進め,その趨勢的傾向を明らかにすること,そして,わが国のそれとの国際比較を行うことと目的としている。

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中野常男

橋本武久

清水泰洋

澤登千恵

三光寺由実子

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