経営学研究科博士課程は、わが国の経営学分野COEとして、質・規模の双方でわが国有数の経営学・会計学・商学分野の研究者を輩出しています。それが可能であるのは、経営学研究科の教育プログラムが、研究者を養成する上で優れたプログラムであるということがあります。

 大学院教育によって研究者を育成することには、学部専門教育にはない特別な難しさがあります。経営学部における学部専門教育では、経営現象を知る、経営現象を説明する理論を論理的に理解できる、経営現象や理論の知識を応用して、さまざまな経営現象を理解し、説明できる人材を育成します。すでに発見された経営現象・理論を学び、それを応用できる人を育てるわけです。

 これに対して、大学院の研究者養成では、未知の経営現象を発見する、経営現象を説明する新たな理論を見出すといった能力を育成します。

 教育を通じて、問題発見・認識能力を開発することはたやすいことではありません。それを可能にする経営学研究科の教育プログラムの特色として、いくつかを挙げるとすると、次のようなことがあります。

 第1の、そして最も重要な特色は、一流の研究者を、経営学の諸分野にわたってもれなく、しかも多数集めた研究拠点であることです。経営学研究科には、経営学・商学分野の研究者集団としてはわが国有数の規模である約60名の研究者がいます。そして、そのそれぞれが、その研究分野でわが国を代表する優れた研究者達です。(注3)

 大学院教育によって経営学等の研究能力を与えていくには、それを与える教育者が優れた研究者であることが不可欠です。さらに、経営学は多岐にわたる諸分野の研究が行われるため、そのそれぞれに研究者を擁することで、どのような分野の研究者も育成することができます。その際、個別分野ごとに1人ではなく複数の研究者がいることで、研究の相乗効果が生まれ、研究成果や教育効果が格段に生まれやすくなります。神戸大学大学院経営学研究科は、これらの全ての条件を満たす、わが国でほとんど他に類を見ない教育機関です。

 さらに、経営学研究科の研究水準は、それぞれの研究者の優れた研究活動によることはもちろんですが、同時に研究科としての組織的な取り組みによって飛躍してきました。例えば、経営学研究科は、文部科学省が国際的な研究拠点を目指して2003年度に設けた「21世紀COEプログラム」において、経営学分野の「21世紀COE」に指定されました(注4)。それによって5年間にわたって行われた「ビジネスシステムの研究」の成果は高く評価されています(「21世紀COEプログラム」)。

 経営学研究科の教育プログラムの第2の特色は、経営学研究科が1990年代から不断の努力によって作り上げてきた、研究者を育成するためのシステマティックな仕組みで教育を行っている、ということです(注5)

 我が国の社会科学分野の研究者育成は、最近まで、指導教授による個人指導やあるいは指導教授がその指導学生を集めて行うゼミ教育といった、指導教授個人による教育を通じて行うことが普通でした。この方法によって優れた研究者が生まれたことも確かですが、問題もあります。それは、社会が必要とする、経営学等の研究能力を持つ人材を十分な数だけ育成することができないということ、また育成される能力の幅が指導教授の専門分野に偏り、狭くなりがちであること、さらに育成した人材の能力の善し悪しが個人指導する教授の教育の善し悪しに強く左右されてしまうことなどです。

 これに対して、経営学研究科は、欧米で行われている、研究能力の体系的な育成の仕組みを通じて、社会が必要としている質と数の人材を育てる博士課程を作り上げました(注6)。その体系性は次のような点に特徴的です。

  1. 研究能力の育成に必要な教育機能を、研究に必要な知識を与える講義と、実際の研究を指導して知識を用いて研究する能力を与える演習指導との間で、明確に分担し、綿密に連携させる。
  2. 講義では、教員が講義として標準的内容を教授する。教える分野は、多元的・広範囲に、経営学研究の研究分野に9分野、研究手法に3分野を用意する。さらに、9つの研究分野、3つの手法分野のそれぞれで、基礎から先端的内容まで、相互に接続された複数科目を段階的に配置して教える。

 これを学生の側からみると、経営学研究科の教育プログラムに真摯に取り組み、単位を取得していけば、研究者として必要とされる能力を手にすることができるようになっている、ということです。もちろん、上で説明したように、高度な教育内容を吸収した上で、さらに厳しい自己研鑽をつむ必要がありますが、努力すれば報われる仕組みで教育が行われていると言うことができます。このような、欧米の研究大学院で行われているのと同様の体系的な仕組みによって大学院教育を行うことは、経営学・商学分野ではわが国でほとんど行われていません。

 さらに、経営学研究科は、教育の一層の向上を目指して、現在も不断の努力を継続しています。そのために、自己評価・外部評価を継続的に行い、教育の新たな仕組みを開発し、文部科学省の『魅力ある大学院教育イニシアティブ』(2005年度から2006年度)、『大学院教育改革支援プログラム』(2007年度から2009年度)、『卓越した大学院拠点形成補助金』(2012年度から2013年度)の指定を受けてその実現に取り組んで来ました(「大学院教育改革支援プログラム」成果報告書pdf)。それによって強化された主な教育には、次があります。

  1. 世界に通用する研究成果を生み出す能力を育成する。
  2. これまでわが国に相対的に不足してきた、経営学の実践的・応用的教育能力を、研究能力に裏付けられた能力として育成する。

 これらの教育方針をより進化させ、国際的に通用する研究者と産業人の両方を育成するために、2013年度から恒常的な教育プログラムとして、「戦略的共創経営イニシアティブ(Strategic Entrepreneurship and Sustainability Alliance Management Initiatives : SESAMI)」プログラム(以下、「SESAMIプログラム」という。)を新たに創設しました。このプログラムは、次の二つの問題に取り組むことによって日本企業の再生を達成しようとするものです。第一の問題は、日本では、起業、企業内新事業創造、戦略的企業連携等の「創造」が不活発であるだけでなく、高度化・複雑化・グローバル化した金融システム・企業ガバナンスについての専門家が不足していることです。第二の問題は、他の企業、環境と地域社会との共生を図るサステイナビリティ・アライアンス経営が日本では展開されておらず、その専門家が不足していることです。これらの2つの問題を克服するために、SESAMIプログラムは、共生の経営学と創造の経営学が融合した戦略的共創経営という研究教育領域を定義し、日本のビジネスシステムの強みを継承した形でのグローバルスタンダードの構築を理念とし、新規事業を創造し、共生を推進する能力を兼ね備えた戦略的経営の研究者と産業人をグローバルな観点から養成することを目的とします。

 これらを通じて、国際的に活躍する経営学者をこれまで以上に輩出するとともに、21世紀のビジネスリーダーを育成するためにこれからますます重要となってくるMBA教育等の教育を担える人材を輩出することが期待できます。これが可能となったのも、経営学研究科博士課程の教育プログラムの特色によるものです。

 国際的な経営学者を育成するには、こうした優れた教育プログラムに加えて、そのプログラムで学生を指導する教授自身が、国際的水準の研究を行う研究者であることが必要です。経営学研究科は、欧米の国際学会を舞台に活躍する研究者を多数擁しており、その研究指導の下に世界で活躍できる次世代の研究者が次々に育っています。

 優れた教育プログラムと優れた研究者の双方を備えた経営学研究科は、国際的に通用する経営学者を育成することのできる、わが国有数の教育機関です。

(注3)経営学研究科の教員に関する詳しい情報は、経営学研究科ホームページを参照して下さい。(詳しい教員紹介)また、各教員の研究内容・成果、経営学研究科の研究水準の評価は、2015年度自己評価・外部評価報告書『経営学研究・教育の伝統と革新』に詳しく紹介してあります。そのオンライン版を経営学研究科ホームページから読むことができます。(自己評価・外部評価報告書を見る

(注4)ここで言うCOEもまたCenter of Excellenceの略で、「21世紀COEプログラム」とは文部科学省が、それぞれの学問分野ごとにわが国の研究拠点を指定し、特別の研究費を支給して、世界レベルの研究成果を出そうとする仕組みです。経営学分野では、神戸大学大学院経営学研究科、一橋大学大学院商学研究科、東京大学大学院経済学研究科の3研究科が、2003年度に行われたこのCOE指定を受け、研究を行いました。

(注5)長年にわたって経営学研究科が作り上げてきた博士課程の教育プログラムとその成果は、これまで9回にわたって行った自己評価と外部評価によって、詳しく調査・分析されています。その結果は、9回の評価ごとに、自己評価・外部評価報告書として出版されています。経営学研究科博士課程の教育プログラムをどのように自己評価しているか、わが国の他大学の研究者からどのように評価されているか、について詳しく知りたい方は、この自己評価・外部評価報告書をご覧下さい。直近の2015年度自己評価・外部評価報告書は、オンライン版を経営学研究科ホームページから読むことができます。(自己評価・外部評価報告書を見る

(注6)経営学研究科が行っている教育の仕組みは、この欄の「3.教育の方法」と「4.講義の体系」で説明しました。