増補新版 パナソニック ウェイ

著者名 長田貴仁
タイトル 増補新版 パナソニック ウェイ
出版社 プレジデント社 2008年12月
価格 1429円 税別

書評

2008年10月1日、松下電器産業は「パナソニック」(Panasonic)に社名を変更し、ブランドと社名を統一した。この日、マスコミは「国民的ニュース」として伝えた。創業者・松下幸之助氏が考案した「松下電器産業」という社名と“National”ブランドは消えた。社員が胸につけている社章も横文字の“Panasonic”になり、毎朝、従業員が朝会で歌う社歌も「グループ・ソング」に変わった。その歌詞に「松下」の2文字は見られない。松下幸之助が考案した事業システムで、事業部制と並び松下電器の成長要因となった「ナショナルショップ」の看板も“National”から“Panasonic”に取り換えられた。この光景を目にして、創業者の松下幸之助氏は墓場の影でさぞかし悲しんでいるだろう、とセンチメンタリズムに浸った「ナショナル世代」もいるかもしれないが、意外にも、かつて、松下幸之助は「いつかは、社名をブランドと同じにしたい」と語っていたのだった。

2001年9月に上梓された拙著で筆者は、大胆にも「松下はソニーを超える」と見ていた。決算上は、松下電器がどん底に陥る少し前であった。ヒット商品不在で社内の雰囲気も落ち込んでいた。思考能力停止状態にあったと言っても過言ではない。当時は、出井伸之社長率いるソニーが絶好調で、書店の店頭には同社に関する書籍がずらりと並び、出井氏はマスコミの寵児になっていた。一方、松下電器の新刊は皆無だった。そこで筆者は「ブランドを一本化し、そのブランドを社名にすべきだ」と提言していた。当時、松下電器の社長を務めていた中村邦夫社長(現会長)は、マスコミや証券アナリストから疑心暗鬼の目で見られていた。ところが、その後、「中村改革」と称される構造改革を成し遂げ、業績は大幅に改善し評価は一変する。そして、2006年6月、中村氏は社長の座を大坪文雄氏に譲った。

その4カ月後、筆者は『The Panasonic Way』(プレジデント社)を刊行した。サブタイトル(副題)にある、「松下電器・再生の論理」を現実の息吹を感じられるように配慮した文体で描いた。原稿を執筆するにあたり、中村氏や当時、専務だった大坪氏など、役員およびそれに準じる方々計14名に話を聞いた。幸いにもこの書籍は、松下電器関係者だけでなく多くの方々に読んでいただいた。発売後一週間で重版となり、主要書店で上位にランクされた。たとえば、大阪の旭屋書店では、ビジネス書で一位になった(「日経ビジネス」2006年3月6日号より)。

本書は『The Panasonic Way』の増補新版である。松下電器産業からパナソニックへの社名変更が、予想をはるかに上回る大きな社会的関心事になったため、社名変更の翌月に当たる12月に緊急出版しようということになった。その結果、筆者は、取材、研究の他、単著三冊の執筆などで首が回らない状態に陥っていたが、寝食を忘れ新刊の執筆に取り組んだ。

本書を執筆していた2008年11月1日午前7時、次のような報道が流れた。「パナソニック(旧松下電器産業)は三洋電機を買収する方針を固め、三井住友銀行など三洋の主要株主3社と11月中にも交渉に入る。三洋株の過半を取得する案が有力で、年内の基本合意を目指す。三洋の電池事業を取り込み成長を加速するのが狙いで、合意すればパナソニックの年間売上高は11兆円を超えて国内最大の電機メーカーになる。電機大手同士のM&A(合併・買収)は初めて。米金融危機で世界経済が急減速するなか、大規模な産業再編が動き出す。三洋は三井住友銀、大和証券SMBCグループ、米ゴールドマン・サックスグループの金融3社が大株主になっており、三洋の優先株を計4億3000万株弱保有している。パナソニックは近く3社と交渉に入り、三洋の資産査定に着手する見通しだ。」(NIKKEI NET, 2008年11月1日。)買収交渉は決着したわけではなかったが、パナソニックと同様、三洋電機についても歴代の首脳にインタビューをしてきた筆者は、急遽、三洋電機買収の真意についても書き足すことにした。この本が上梓された直後の2008年12月18日、「日本経済新聞」朝刊トップに、「パナソニック 三洋買収交渉が決着」というスクープ記事が載った。

『増補新版 The Panasonic Way』は、2006年6月初版の『The Panasonic Way』に新しい原稿を加え、再編集した書籍である。新しい酒袋に入れた酒は、社名変更と三洋電機に関する解説、中村社長(当時)、大坪社長に応じていただいたいくつかのインタビュー、「グローバルエクセレンス」を標榜し、ヨーロッパ・ロシア市場で戦うパナソニックの姿などである。これらのケースに含まれている経営学の要素を平易な文体と構成により、多くの人々にとって読み易い形に仕上げたのが大きな特徴である。

目次

第1章 受け継がれたバトン
第2章 ヨーロッパ戦線
第3章 パナソニックがトヨタを超える日
第4章 松下がソニーを超えた日
第5章 組織を壊し再生させる要諦
第6章 「聖域」にメスを入れる意義
第7章 「中小企業集団」の威力を発揮せよ
第8章 「ニート」も働きたくなる会社
第9章 ヒット商品を連発する仕組み
第10章 海外で勝つ「パナソニック」流
第11章 「製造業衰退論」に異議あり
第12章 「幸之助精神」の現代的解釈
第13章 「自治会長型」社長の気概
第14章 三洋電機買収の真意とは