学際的会計研究の軌跡(1) ―Accounting, Organizations and Society, 1976-1985―

要約

最近、個別学問領域を超えた知見が必要とされる問題が増えてきた。環境問題がその最たる例であり、これまで個別学問領域の内部で培われてきた知識だけでは対処しきれない困難性が現れ始めている。そもそも学問とは、一定の理論に基づいて体系化されてきた知識と方法の総称であるが、学際性が叫ばれるようになったのは、その前提となる「一定の理論」では捉えきれない事象が経験されるようになってきたことに起因している。つまり「一定の理論」の範囲を越えた広い視野、高い視点からの説明が求められ、新しい世界の設計に向けて取り組まれようとしているのである。これは、ちょうど国家単位の政策が立ち行かなくなり、国際性への対応が求められるようになってきた今日の状況と似ている。
 現在、学問の最も中心的な位置を支配しているかに見える科学でさえもその例外ではなく、科学という営みが、より広い視野から説明されるようになってきた。それらの説明によれば、科学が前提としてきた「一定の理論」も絶対的なものではなく、ちょうど幼児が知識を習得するのと同じように、人類が科学を習得してきた過程が描写されることになる。会計学でも同様の議論が展開され、国内基準の国際基準への書き換え作業や、組織内部の会計技術の状況依存性(コンティンジェンシー)が論じられるだけでなく、会計という仕組みが前提としてきた一定の理論(例えば、既存の法体系、市場、価値、経済主体、数量化)を再検討できるほどの視野が確保された研究が展開されるようになってきた。そこでは、再検討される諸前提に応じて種々の視点が持ち込まれ、現在の難問に対処していく方途が模索されようとしている。
 本稿では、このような観点から会計研究を推進する役割を担っているジャーナルであるAccounting, Organizations and Society(AOS)に焦点を置き、そうした研究、すなわち学際的会計研究の動向を把握することを目的とする。そこで、次節ではまず学際思考そのものについて考察し、続いて会計学における学際思考の展開について説明する。そして、最後にAOSにおける特徴的な学際的会計研究の動向を概観する。

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堀口真司

新井康平

鈴木新

北田皓嗣

嶋津邦洋

田中利太

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